君に触れたい5題

3 風に揺れる髪



 日織の家を訪れた成瀬は、門戸を開けた。仕事帰りの今日、和と日織の三人で夕食を食べる約束となっている。恐らくその後はこのまま泊まることになるだろう。
 珍しいことでもない。これまでにも幾度となくそうして過ごしてきた。何だかんだ言いながら、気のしれた人たちと過ごすのも嫌いではなかった。
 門を潜り、玄関に向かおうとした成瀬は途中で足を止めた。雨戸が開けられた縁側に、和が寝そべっている。
 成瀬は和を呼びかけて、寸でのところで思いとどまる。ゆっくり近づいてみると、やはり和は寝入っているようだった。居間から持ってきたらしい、枕代わりの座ぶとんを折って頭に敷いていた。
 最近、和は論文で忙しいらしい。睡眠時間もあまり取れていないようだった。この前電話をしていた時も、欠伸をかみ殺しては申し訳なさそうに謝っていた。
 縁側は、日が当たると暖かく、昼寝には最適な場所だろう。日織の飼っている猫も、よくそこで丸くなっている。猫はその時過ごしやすい場所にいると言うのだから、和もまたつられて、居心地の良さからつい眠ってしまったんだろう。
 柔らかく、風がそよいだ。
 風に吹かれた和の髪が揺れる。口をもごつかせながら、休息を得ている彼の姿を前にして、成瀬は仕事で溜まった疲れが、抜けていくのを感じた。こいつの名前通り和む光景だ、と思いながら手を伸ばし、和の髪を指先で梳く。
 くすぐったいのか、和の顔が綻んだ。それを見て、また頑張れる気がした。
 日織が奥から顔を出す。成瀬は和を起こさないよう手振りで家に上がると日織に伝え、玄関に向かった。
 もちろん、足音を忍ばせながら。