君に触れたい5題

2 すらりとした指




 和は成瀬に頭を撫でられるのが好きだ。子供っぽいと思われるかもしれない。それに手のひらでかき混ぜるようにするから、いつも髪がぐちゃぐちゃになってしまうが、何故か安心してしまう。きっと相手が成瀬なんだからだろう。
 そう思いながら、和は身を乗り出し、成瀬に向かって手のひらを向けた。
「ね、ね、成瀬くん。ちょっと手を合わせてみてもいいかな?」
 突拍子な申し出に面喰らった成瀬が「はぁ?」と眼を瞬いた。
「どうしたんだよいきなり。変な奴だな」
「うん。ちょっとやってみたくなって」
「どういう理由だ」
 首を傾げながらも、成瀬も和に手のひらを向ける。
「ありがとう」と言いながら、和は掌底からゆっくり成瀬の手のひらに自分のそれを合わせていく。
 指の先が、僅かに足りなかった。もちろん和のほうが、だ。体格からか、やっぱり成瀬のほうが手のひらが大きい。こんな時、僕のほうが年上なのにな、と和はほんの少し悔しくなるが、その反面成瀬くんなら良いか、とも思ってしまう。もしかしたら自分は、結構馬鹿なのかもしれない、と考えて思わず和は吹き出してしまった。
「なーに笑ってんだよ」
 頬が緩む和に、成瀬がおかしそうに言った。和はにっこり成瀬に笑いかけ「成瀬くんの手、綺麗だなって思って」と言う。途端に成瀬は口籠り、口を手で押さえた。
「成瀬くん?」
「……そんなことを言うのは、お前ぐらいだよ」
 口を塞いだ指の間から零れる呟きが、くぐもって聞こえる。
 本当のことなのに。和は些か納得できず「そんなことないよ」と唇を尖らせた。
「だって指だってすらりとしているし。男の僕から見ても、そう思えるし」
「だーっ! もう分かった。分かったから言うな。恥ずかしいから」
 怒鳴りながら、成瀬は合わせていただけの手を少しずらし、和の手を「こうしてやる」と握りしめる。力を込められ痛かった。
 褒められると、成瀬はいつも勢い良く盛大に照れる。怒るのは、それを隠すために誤魔化しているのだ。
 だけど、そういうところが好きだと和は思う。
 やっぱり僕は、成瀬くん馬鹿なのかもしれないなぁ。
 つい笑ってしまう。些細な言葉にも、過敏な反応を示してしまう彼が微笑ましい。
「痛いって」
 そう文句を言いながら、和も成瀬の手を握り返し、彼に負けないよう力を込めた。