携帯メール




 成瀬の携帯電話に、メールが送られてきた。差出人は日織。画像が一枚添付されている。
 仕事の収録で、長い空き時間が出来た成瀬は、何だろうとメールを開き、絶句した。
 ――最近忙しくて和さんに会えない可哀相な成瀬さんに、良いものが撮れましたから、送ります。
「あの野郎……。人がいねーのをいいことに……」
 成瀬は舌打ちをした。
 添付されていたものは、和の寝顔だった。折った座布団を枕にして、とても気持ち良さそうだ。
 和が寝転がっている場所には見覚えがある。このメールの差出人の家だ。恐らくは、和が眠りに落ちたのを見計らい、勝手に撮ったんだろう。そうでなければ、和が写真を大人しく撮られるはずはない。彼はカメラを向けられると、途端に顔を真っ赤にして恥ずかしがるのだ。
 そのせいか、いくら成瀬が携帯で写真を撮らせてくれとせがんでも、和は固辞し続けてきた。なのに日織から成瀬があっさりと欲しかったものを与えられ、複雑な気分になった。オレには見せようとしない隙を、日織にあっさり見せてどうする。
 悔しくなりながらも、指は素直に動き、画像を携帯電話に保存した。そして続けて日織に、可哀相は余計だ、と返信し携帯電話を閉じる。
 ――ああ、ちくしょう。会いたくなっちまったじゃねーか。
 和が寝ている画像を見た途端、抑え込んでいた気持ちが溢れ、それを弄ぶように髪を何度もかき上げる。あんな無防備な寝顔を自分以外の奴に、見せたくない独占欲が胸を占める。
 手に収まっている携帯電話を見つめ、声もしばらく聞いてないことに気付いた。
 会いたい。
 携帯の画像じゃなくて、直に和を見て、触れて、声を聞きたい――
「……そーとー末期だな、オレ」
 和欠乏症になる前に、早く仕事を一段落させて、会いに行こう。
 よし、と成瀬は気合いに軽く頬を叩いた。
 何処かでスタッフが呼んでいる。出番が回ってきた成瀬は、良い演技で一発OK貰ってやると、意気込んでセットへ向かった。