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昼休みはいつも日向と食べるようになってきた。雪子や千枝が混じる時もたまにはあるが、大抵は二人で屋上に行くのが定番になりつつある。
いつも昼食には購買のパンな自分とは違い、日向は弁当を持参している。世話になっている堂島の弁当を作るついでらしい。
並んで座り、さっそく弁当の蓋を開ける日向の手元を除きこむ。卵焼きにウインナー、ポテトサラダが綺麗に詰め込まれていた。彩りも考えられてパセリも添えられている辺り、凝っていると思う。
雪子や千枝にも見習ってほしいもんだ。そう考え、林間学校の得も言われぬカレーを思い出しげんなりした。アレは絶対有り得ない。
「……どうした?」
じっと弁当を見つめる視線に、日向が陽介の顔を覗きこみ首を傾げて尋ねる。
「えっ? あっ、あー。お前の弁当うまそうだなーって」
いきなり話しかけられた驚きから、ついうわずった声で答えてしまう。うわ何でこんな声出してんだ、オレ。自分の出した声のトーンに驚いてしまう。
「食べるか?」
物欲しそうな顔をしていたのか、日向が「ほら」と卵焼きを箸で挟んで陽介に差し出した。
「……え、いいのか?」
「ああ」
頷かれ、さらに口許に卵焼きを向けてくる。
食べさせてもらう格好に内心どよめきながらも、陽介は口を開いて卵焼きを食べた。
ふんわりと甘い味が広がっていく。母親が作るものよりも、断然美味しい。
「うまっ。お前相変わらず料理上手いなー。アイツらにも見習ってほしいぜ」
心からそう思いながら言うと、日向は「そうか」と小さく笑った。
「そう言ってくれると嬉しい。あげて良かったって思えるから」
「おうよ。いくらだって言ってやるぜ。その代わり、また何かくれよ? オレお前の料理好きだし」
「考えとく」
満更でもないらしい日向は頷き、残った卵焼きを口に運んだ。
――あ。
弁当を食べる日向を見て、重大なことに気付いてしまった。
もしかして間接キスじゃねえかこれ!
思い切りうろたえてしまう。意識し過ぎだと言われればそれまでだがついつい日向の口に目がいってしまうのを止められない。
間接的でも同じ場所に口が触れたんだよな。考えた途端、かっと頬が熱くなった。
「……どうした? 陽介顔が赤いぞ」
顔を凝視し、日向は弁当を脇に置いた。「熱でもあるか?」と伸ばした手を陽介の額に当てた。もう片方の手は自分の額に当て、熱の高さを計っている。
「……少し熱いな。どこか具合でも」
「いやいやいやいや! 大丈夫だから! すっげ元気だから!!」
日向との距離が近くなり、慌てて陽介は身体を離した。
「……そうか?」
首を傾げながらも日向は「なら、いいけど」と陽介の額に当てていた手を戻した。
「でも無理するな。最近テレビの中に行ってばかりだから、疲れが溜まっているかもしれない。……今日は止めておこうか。クマには悪いけど。それでいいな」
尋ねられ「俺はかまわないぜ」と陽介は頷いた。日向は自称特別捜査のメンバーのリーダーで、誰もが彼のやりやすいように探索のペースを決めていいと了承している。日向はリーダーの名に恥じない有能ぶりだ。彼についていくのは安心出来る。否定する理由など陽介にはない。
何より、日向が自分を気遣ってくれた。些細な事がとても嬉しく、つい頬が緩んでしまった。
出会ってまだ数ヶ月。その間は起った事件の数々で、日向がまるでずっと一緒にいるような錯覚を陽介に抱かせるほど濃密だった。隣に日向がいない時をもう想像出来ない。
だが、日向の隣にいられるのは来年までだ。次に桜が咲く頃、春になったら彼はいなくなってしまう。
まだ随分後の事なのに、陽介はそれを恐れてしまう。一年は短すぎる。多分、他の仲間たちもそう思っているだろう。
「なぁ、俺今度肉じゃが食いてーな。弁当に入れてきてよ」
胸に広がる寂しさを吹き飛ばすように、陽介はわざと明るい声で言った。
「じゃがいもがきれてる」
「ジュネスで買えばいいだろ。付き合うし」
だから、な。
片目をつむってねだると日向は陽介の顔を見ながら不思議そうに目を瞬いた。箸で摘んだままだったポテトサラダを口に運び飲み込んで「わかった」と頷く。
「菜々子も行きたがってるし、じゃあ今日にでも」
「おう。今日はいいぞー。セールやってるからな。お買い得商品満載だ」
「何だかジュネスの回し者みたいだ、陽介」
思わず笑った日向に「そんなんじゃねえって!」と口を尖らせたが、すぐに笑い返した。
こうして他愛ない話で過ごせる短い昼休み。時間よ、もっと遅く進め。
もっと長く、こいつの隣に居られるように。
日向の笑う顔を見ながら、陽介はそう思った。