ウェブ拍手小話ログ1



どうしようか (陽介+主)

 目が覚めて、大きく背伸びする。欠伸をしながら、まだ眠たい目を擦って瞼を開けると、見慣れない天井が視界に入った。
 ――俺の部屋じゃねえよ。
 陽介は肩を竦ませた。嫌な汗が頬を伝い、驚き固まった全身に寒気が走る。
 昨日の記憶を辿りながら、おっかなびっくり起き上がる。すると、日向が黒いソファで寝ているのを見つけた。どうしたって余ってしまう足を手摺の部分に掛け、反対側のそこを枕代わりにして頭を乗せていた。
 そう言えば、橿宮のところに泊まってたんだっけ。陽介は置かれている状態を理解し、ほっとしてから、日向に対して申し訳ない気持ちになった。
 部屋主を差し置いて、布団で気持ちよく眠っていたなんて。昨日、はしゃぎ疲れて勝手に沈没した馬鹿な自分を殴りたい。
 陽介は布団から抜け出して、眠っている日向の腕を引いた。これまでの付き合いで、これぐらいでは起きないのは知っている。
 ソファから引きずり下ろし、布団に寝かせ毛布を掛け直した。
 ぽんぽんと、あやすように肩の辺りを叩き、陽介は窓際に立って、カーテンからそっと外を覗いた。
 東の空が赤くなっている。もうすぐ夜明けだ。
 さて、朝一番に橿宮に何て言おう。布団を取ってしまった詫びか。もしくはおはようの挨拶か。
 なんかどっちも恥ずかしいんだけど。
 さっきまで自分が寝ていた布団の中、すやすやと寝息を立てる日向を見ながら、陽介は途方に暮れた。




余計な一言 (陽介+完二→主)

 あみぐるみの材料を買いに沖奈まで行く完二に、日向が「俺もついていっていいか」と挙手をした。
「あんなのどんな風に作るのか、材料から見てみたい」
「はぁ……。まぁいいっすけど」
「ありがとう」と頷き、日向はヘッドフォンを耳に当てようとしている陽介を振り向いた。
「陽介も行く?」
「んー。俺はいいや。二人で行ってこいよ」
 ひらりと手を振った陽介の返事は、完二からすれば想定内の範囲だった。手芸屋に男だらけで行くのは、なかなか寒い光景だろう。
 そうか、と日向は陽介から完二に視線を移す。
「じゃあ今日は完二とデートだ」
「はっ!?」
 飛び出した発言に、完二は驚き、陽介がぶっと噴き出した。
 耳慣れない響きの言葉に、完二は真っ赤になって「デッ、デートって……。なんつー言い方してんだアンタは!?」と日向に詰め寄る。だが日向はきょとんと不思議そうに首を傾げるだけだ。
「完二は俺とデートするのは嫌か」
 至極当然のように言われ、完二は「い、嫌じゃねーけど……。でももうちょっと言葉の選び方ってもんが……」としどろもどろになりながら答える。この人は何を言ってるのか分かってるんだろうか。
「デートだろう? 二人きりで出かけるんだから」
 日向は真顔で言った。
「まぁ、俺が無理矢理付き合う形だし、向こうで何か奢るから。行こう」
 さっさと歩きだす日向を、待ってくださいよ、と顔が赤いままの完二が追う。そしてその後を「デートなんて冗談じゃねえ。……俺も行くからな!」と苛立つ声で怒鳴りながら、陽介が続いていった。