たべもののうらみ





「や、やっと休憩かぁ……」
 疲れが滲んだ声で呟きながら、千枝がフードコートでようやく見つけた空席に座り込んでテーブルに突っ伏した。日向も陽介もそれに倣うように、無言で席につく。忙しいと覚悟していたが、ここまでとは思わなかったとその場にいる誰もがそんな表情をしていた。
「やっぱヒーローショー侮っちゃダメだな。フードコートがあそこまで埋まるの、俺見たことないもん」
 それでも何とか座れたのは、そのヒーローショーが始まったおかげになる。それが開催されている会場に客が大勢流れたからだ。
 深く息を吐く陽介に、日向がゆっくり頷く。朝から働きつづけ、昼過ぎにようやく最初の休憩。今までで一番忙しかったせいか、日向は肩を揉みつつ首を回した。
「……お腹空いた」
 千枝がテーブルに突っ伏したまま呟いた。面を上げ、顎でテーブルを突き陽介を見る。
「わーってるって」
 ひらひらと手を振って陽介は苦笑した。忙しいからとバイトを頼み込んだ日向と千枝には、その期間中フードコートで昼食を奢ることになっている。
「さー、お前ら何食べたい? 何でも言ってくれよ」
 疲れを気にしないように、陽介は明るく尋ねた。
 日向と千枝の視線が、陽介に集中する。
「あたしは肉! もしくはウルトラヤングセット!」
「ウニ」
 上体を起こし、元気よく挙手する千枝に淡々と一言だけ言った日向。対称的な物言いをする二人を交互に見て、陽介は後ろに背をもたれた。
「里中はまだわかるけど……。橿宮はなに。なんでウニ?」
「久保捕まえて事件が終わったお祝いにこの前みんなでお寿司食べたんだけど。ウニが一つしかなかった」
「それで?」
「食べたかったのに、足立さんに取られた」
 取られた時を思い出したのか、日向は不機嫌な顔になる。
「はー、それでウニなわけか」
 千枝が納得して感心した声を上げた。
「食べ物の怨みは怖いからねぇ……」
「だからってなんで今なんだよ。それにここにはウニ売ってねーよ」
 フードコートに並ぶ店舗は、焼きそばやファーストフードの類いばかりだ。日向の望むウニは置いていない。
 しかし日向は陽介をひたりと見据えて言った。
「ウニ」
「ここには売ってねーって言ってるじゃん」
「ウニ」
「だから、フードコートのなかで」
「さっきなんでもって言った。だからウニ」
「……」
「ウニ」
「わかったから。今日のバイト終わったら買ってやるから……」
 とうとう折れた陽介が、諦めたように肩を落とす。
 日向は「楽しみにしてる」と言った後、そして続けた。
「じゃあ昼は俺もウルトラヤングセットで」
「……」
「昼からのことも考えて力を蓄えないと」
「おっ、いいこと言うね、橿宮くん! あたしも負けてらんない!」
 張り切るように千枝は両手を握り込む。
 たくましいな、と二人を見て陽介は思った。あまり見習おうとは考えたくないけど。
 諦観を込めた息を吐き「じゃあ買いに行くか」と陽介は二人に立つよう促した。