レア



 ジュネスのフードコートに集合がかかり、向かった陽介は、一足早くそこにいた人物に驚いた。
「……完二? 一番なんて珍しいな」
 いつもだったら、呼び出しを掛ける張本人の日向が最初に来ているが、完二がそうなのは初めてだ。
 完二は自分がいつも座っている椅子に浅く腰掛け、俯きがちに携帯を構っている。何を見ているのか気になって、陽介は足音を忍ばせると、完二の後ろへ近付いた。
 携帯に気を取られている完二が気付く様子もない。陽介はひょいと完二の肩越しに携帯を覗きこむ。
 メールガードも貼られていない、携帯の画面。そこへ映し出されている画像に、陽介は思わず驚愕した。
「な、なんだよコレ!」
 耳元で叫ばれ「うおっ、ビックリした!」と完二が耳を押さえて振り向く。
「なんなんスか花村先輩! いきなり叫んで!」
「なっ、ななっ、なんで」
「は?」
「何でお前がそんな画像持ってんだよ!」
 陽介が見たのは、浴衣姿の日向だった。同じく浴衣を着ている菜々子と並び、揃ってはにかんでいる。
 見たこともない日向の姿に、陽介は驚くばかりだ。その画像を完二が持っていることにも。
「コレっスか?」
 携帯を陽介の前にぶら下げて、完二は夏祭りにいく日向と菜々子の着付けを自宅でしたことを説明した。
「コレはそん時に撮ったヤツっスよ。せっかくだったんで」
 撮った画像は、日向の携帯に送り、こうして自分の方にも残しておいたのだと、完二は言った。
 目の前にぶら下がった携帯を掴み、陽介は「何でオレも呼ばねーんだよ」と険しい顔で唸った。
「……は?」
「橿宮の浴衣だけでもレアに違いねーのに……。この笑顔は菜々子ちゃんにしか見せないスペシャルエディションじゃねえか……!」
 日向が満面の笑みを見せるのは、今のところ菜々子の前だけだ。妹みたいに可愛がっている彼女にしか向けられないそれを、完二が形に残して手元に置いている。
 羨ましさと悔しさが陽介の中で入り交じった。
「仕方ねえっしょ。突然だったし。それにアンタ、先輩と菜々子ちゃんの兄妹水入らずで楽しい時間に割り込む度胸、あるんスか?」
「……」
 そんなものは、陽介にはなかった。
 尤もな完二の正論に、陽介は黙るしかない。それでも諦め悪く携帯を握り締め、陽介は真剣な表情で完二を見た。
「俺にも、この画像くれ」
「アンタ今までで一番深刻そうな顔して言ってんじゃねえよ」
 陽介の頼みに、完二が本気で呆れたように言った。