パフェ





 最近遠出してないから、と日向の希望で今日陽介は沖奈で彼とデートをした。沖奈なら、知り合いにばったり遭遇、なんてこともなく陽介としてもいい提案だとすんなり受け入れた。
 封切られたばかりの映画を見て、昼食。買い物して、街をぶらぶら歩いて。デートではお決まりのコースだけど、相手が日向だと全然飽きない。
 だけど今日はちょっと違ってた。いつもだったら立ち寄る本屋を素通りし、日向に連れられて来たのは喫茶店。始めて見たそこを、躊躇いもなく入っていく彼に陽介は首を傾げたが。
「わざわざ沖奈誘ったのはこの為か……」
 日向の前に運ばれてきたモノを見て、納得した。
 向かいに座っている日向の顔が見えなくなるほどのパフェが、テーブルの上で存在感を醸し出していた。トールサイズのそれはグラスいっぱいにアイスやクリームが詰め込まれ、フルーツやプリン――小さなケーキまでも飾り付けられてる。
「地元情報誌に載ってるの見たんだ」
 いただきます、と言って早速日向はパフェの制覇に取り掛かる。上に乗って少しフォークで突くだけでも危うそうなフルーツをひょいと指で摘んで食べ、それからスプーンでクリームやアイスをどんどん口へ運んでいく。
 見てるだけで胸やけしそう。日向ほど甘いものが得意ではない陽介は、コーヒーを飲んだ。舌を刺す苦味が、パフェを見て感じた胸やけのようなものを抑えて安心する。
 割と日向は、子供っぽいメニューが好きな一面がある。それを隠したりせず、こうして堂々としている姿は、いっそ好ましい。
 周りもそうなのだろうか。それとも男子高校生にでっかいパフェ、という珍しい組み合わせのせいか、そこらから視線が集中していた。
 あからさまな好奇の視線に晒されながらも、無心で日向は食べ続けている。流石は相棒。陽介は内心拍手して褒めたたえる。俺じゃまず無理だ。
「今度は菜々子も連れて来よう」
「そだな。そん時は俺も連れてってくれよ」
「パフェ奢ってくれるなら」
「うわ、ひっど」
 パフェはあらかた食べ尽くされ、グラスは空に近い。
「しかしよく食べれたな」
 感心して言う陽介に「スペシャル肉丼と比べたらたいしたことはない」と日向があっさり言った。
「これは割とフルーツ多めだし。チョコレートソースも少なかったから陽介でもイケると思うんだが……」
「んー……」
 陽介は日向に手を伸ばした。口許についているクリームを指の背で拭い取り、自分の口に含んだ。
 じんわり広がる甘みは、なるほど思っていたよりもあっさりしていた。
「そうだな。今日みたいなのはともかく、ちっちゃいサイズだったら俺も食べていいかも」
「うん。三人でまた食べに行こう」
 日向は笑って言い、最後の一口を嬉しそうに食べた。