「いつも思うんスけど」
ジュネスのフードコートでラーメンを啜っていた完二が、突然口を開いた。
「あの看板の絵って微妙じゃないっスか?」
顎をしゃくり、日向の後ろにある柵に設置されている看板を指す。日向が振り向けば、牛と称するに少し躊躇う絵が目に入った。
「俺は結構好き。つぶらな目とか、かわいくないか?」
顔を戻し、日向が思ったことをそのまま言った。
「そっすかね……」
首を捻りながら完二はラーメンを口に運び、ちゃんと咀嚼してから言葉を続ける。
「オレからしたらもうちょっとちゃんと描けって言いたくなりますね。色ムラひでぇし」
「そう言うな」
直球で酷評する完二を日向が柔らかい声で宥めた。
「それはそれで味があっていいじゃないか」
「そういう……もんなんスかね?」
「うん。あ――でも完二って絵が上手いよな」
はたと顔を上げ、日向はあることを思いつく。
「そんなに気になるんなら、完二が描いてみたらどうだ?」
前に一度日向は完二の描いた絵を見せてもらったことがある。大したことはない、と完二は照れて謙遜していたが掛け値なしに上手だと日向は思っている。
「オ、オレがか!?」
案の定大袈裟に驚く完二に「うん」と頷き、日向は反対の方を向く。
「どうだろ、陽介」
「……」
今まで黙って話を聞いていた陽介は、難しく眉間を寄せ腕を組む。提案に乗るにしろ乗らないにしろ、明るく話に絡むだろうと考えてた日向は、思いがけない反応に完二と顔を見合わせた。
「……悪いけどさ、そっとしておいてくんね」
陽介が沈黙を破った。気まずそうに視線を泳がせ、頬を掻く。
「看板の絵さ、親父が描いてんだけど。アレにすっげ力込めてんの見ちまったんだよね、俺。だから上手いの持ってこられたら、色んな意味でヘコむと思うしさ……」
「……アンタの親父も大概面倒臭い奴だな」
完二が「ガキか」と呆れる。しかし日向は妙に納得した顔ぶりで「なるほど」と言葉を零した。
「今、陽介と陽介のお父さんが親子だなってすごい実感した。陽介って父親似だよな」
明るく笑って告げる日向に「言うな!」と顔をテーブルに突っ伏した陽介が、頭を抱えた。
「俺だってそう思っちゃうのがイヤなの! こんななっさけねー所で親子の繋がり見たかねーし!」
うあー、と羞恥に塗れた声で呻く陽介を気の毒そうに見て「……もうこの話は止めようか」と日向が静かに切り出す。なんだかかわいそうに見えてきた。
「そっすね……」
神妙に完二も頷き、ラーメンの残りを大人しく食べていく。
長閑に晴れた青空の下、陽介の嘆きがフードコートに響いていた。