雨が降る音を聞きながら、陽介と日向は屋上へ続く階段に、並んで座る。天気が悪い日は屋上に上がる生徒は殆どいないので、誰かが来る心配もない。とは言え、後ろめたいことをするのではないけれど。
でも、せっかく作ってきてくれた弁当を、誰かに見せたくないもんな。
昼休みの一時でも日向を独占して、陽介はちょっとした優越感を味わう。しかも、日向の手作り弁当つきだ。これを幸せと言わないで何と言おう。
夢心地で弁当を食べ終えた陽介は、両手を合わせ、ごちそーさん、と言った。
「今日もうまかったぜ。お前の弁当!」
空の弁当箱を丁寧に包み、日向に返す。しかし受け取った日向は、何故か浮かない顔をした。
「……なんでそんな残念そうな顔になんの?」
こっちは褒めたつもりなのに。
陽介は受け取った弁当箱を見つめる日向を、疑問に思った。
「……味、した?」
不思議なことを尋ねられ、陽介は反射的に答える。
「まぁ……、そりゃあ、するだろ?」
その答えを聞いて、ますます日向は考え込んでしまった。一体何が日向をこうさせているんだろう。
陽介は勇気を出して、恐る恐る聞いてみる。
「オムライスが、どうしたんだよ?」
うーん、と唸りながら、日向はとんでもないことを言った。
「前の打ち上げで天城がやっていたやり方で作ってみたんだ」
「はぁ!?」
陽介は、久保を捕まえた後、行なわれた打ち上げを思い出す。菜々子を審査員として開催された料理対決で、女子たちは誰もが散々な出来栄えのオムライスを作っていた。
雪子が作ったのは、全く味がしないオムライス。生のおふを囓っているみたいだ、と最初に食べた完二が微妙な感想を述べていた。
「橿宮の十分うまいのに、どうしてわざわざ台無しにするほうに持って行こうとするんだよ」
もし真似して日向まで、料理の腕が落ちてしまったら、本気でショックを受けてしまいそうだ。
「いや、味がしないのって、言い換えれば嫌いなものを克服する取っ掛かりになりそうだと思って」
ピーマンとか苦いのなくなったら食べやすいだろう、と言われ納得する。味がしないのも考えようによっては、様々な可能性が見えるようだった。
「で、可能な限り再現したつもりだったんだけど……。味、するんだろう?」
「ああ、うげーうまかった」
卵もふんわりしていて、ケチャップライスも味がきいていた。いつもながら見事な橿宮マジックと断言出来る。
「……どこで間違ったんだろう」
真剣に悩み始める日向に「いや、間違ってんのは天城だから」と陽介が慰めるように肩を叩いた。