「……お前なんで俺の部屋にいんの? てかここ稲羽」
「うん稲羽だな」
 あっさり日向は頷いた。
「向こうの家にいるんじゃないのか?」
「実は、今日こっちに戻ってきたんだ」




うんとキスをして、わたしをハイにして


ペルソナ4 花村陽介×主人公 オフ 40P A5 300円
サイトに連載していたMemories of the worldの後日談。
夏休み、勉強とか色々頑張る陽介の下に突然やってきた日向との日常を綴った、ほのぼの話です。
長編の後日談となってますが、読まなくても単品で楽しめます。
尚、この本はとてもほんのりですが、性的描写が含まれるため、18歳未満の方の頒布をご遠慮させていただきます。
本当にほんのりなので、過度な期待もしないほうが無難だよ! 


Simple
「お姉ちゃん。お兄ちゃん。お茶入れたよ」
 参考書と睨めっこをしている陽介に、菜々子がグラスの乗ったお盆を持ってやって来た。零さないよう慎重に一歩踏み出すごとに、からん、と注がれたお茶の中で氷が涼しげな音を鳴らす。
「うっわ、菜々子ちゃんありがとう! 気が利くね!」
 陽介のはす向かいで同じく問題集を睨んでいた千枝が、菜々子が持ってきた冷たい麦茶に目を輝かせた。そして卓を挟んで向かい合う雪子を窺うように見遣る。
「あのー、雪子さん? 菜々子ちゃんがせっかくお茶入れてくれたし……」
「そうそう。ここらで一旦休憩しようぜ」
「まだ終わってない」
 二人の懇願に眉一つ動かさず、雪子が「千枝、この問題まだ終わってないよ」と千枝が開いている頁の問題を指差した。
 手厳しい雪子にうっと千枝が呻く。緑色のシャーペンを持つ手が震えた。
 雪子は尚も「終わってないよ」と繰り返す。
「あのね雪子。やっぱりずっと頭に詰め込むのってあんまり良くないと思うんだ」




「あのさ、明日……、ヒマ、だったりする?」
「明日?」
 陽介は明日の予定を思い起こした。明日の午前は沖奈で夏期講習がある。そう伝えると「そうか……」眼に見えて日向が消沈した。
「あ、で、でもさ、午後はヒマだから!」
 肩を落とす日向に、陽介は慌てて付け加える。胸の中は期待で膨らみそうだ。これって、もしかして、もしかすると?
「本当か?」と顔を上げた日向の表情が俄かに明るくなる。
「だったらさ、その夏期講習が終わったらデートしないか」
「デート」
「そう、デート」




 日向の手がベンチに置かれた陽介の手を上から包んだ。
「陽介は頑張ってるよ。ずっとずっと前から。俺は頑張ってる陽介の隣にいてずっと見てきたから。だから俺も頑張らなきゃって思ったんだ。親のこととか、本当に行きたかった進路のこととか。多分陽介がいなかったら、ちゃんと向き合えたかどうかわからなかった」
「俺は何にもしてないって」
 今までのことを思い返しても、陽介には日向にしてやれたことの覚えがない。逆に日向に励まされたことばかり、頭を過ぎっていく。
 しかし日向は「そんなことない」と首を振った。
「陽介はすごく頑張ってるよ。だから俺も頑張れて、本当に、俺は陽介を好きになって良かったって思ってるよ。……心から」
 さりげなく告白され、陽介の頬が赤くなった。不意打ちだなんて狡いじゃないか。
 陽介は呻いて前髪をくしゃりと掻き混ぜた。
「このタイミングで言うのかよ」
「言いたい時に言わなきゃいつ言うんだ?」