「壇って、好きな子をいじめたりするようなタイプだったでしょ」
「さぁな。昔っから、そういうの興味無かったし。……でも案外、そうかもしれないな」
「え?」
「お前の反応は見るのが楽しくて、色々したくなる……な」



花と宿鴉
東京鬼祓師 壇燈治×七代千馗 オフ 76P A5 600円


時間軸はゲーム本編5話後〜6話後。
新たに広がった噂を気にして距離を広げようとする燈治と、それに怒る七代。そして封札師の腕を気にして無茶をする七代と、それに憤る燈治。
どっちもどっち的な二人が紆余曲折しながら両思いになるまでの話。
二人のほかにも色んな仲間がちょくちょく顔を出してます。特に絢人の出番が多めだったり。
尚、この本は性的描写が含まれるため、18歳未満の方の頒布をご遠慮させていただきます。 


Simple
 扉の隙間から、外の冷たい空気が入ってくる。思わぬ冷たさに、眠りから覚めたばかりの七代の意識をはっきりとさせてくれた。
 外の寒さに身震いをしながら、それでも屋上に足を踏み入れる七代の姿を、先客が振り返る。
 少しでも寒さを凌ごうと、自分の身体を抱きしめる七代に彼――壇燈治は笑った。
「何だ七代。お前もサボりか?」
「一時間目しか出ていない壇よりマシです」
 壇の隣まで歩いた七代は、唇を尖らせた。七代が授業に出なかったのは最後の一時間のみだ。しかし燈治は出席に五月蝿い教師の一人である牧村久榮の受け持つ世界史のみ出たきり、教室を出てしまっている。時間の長さからすれば燈治の方がよりサボっている。
 だが燈治は気にすることなく肩を竦めた。
「どれだけとかは関係ないだろ。サボったって事実は変わらないし」
「おれのは穂坂公認だからいいんですよ」
「なんだそりゃ」
 燈治は苦笑した。
「でも、なんかアイツに言われたら、サボってもいいんじゃねえかって気にはなるな」
「でしょう」
「どうしてそこでお前が胸を張るんだ……?」




「何って、それはこっちのセリフだ! このバ千馗!」
「ばかずきって……」と呆然と呟いた七代の眼が、不満にきゅっと細まる。
「馬鹿ってなんなんですか、馬鹿って!!」
「お前しかいねーだろ。この馬鹿! 一人で勝手に洞に潜りやがって……。白が教えてくれなかったら、テメエ今頃やられてたぞ!」
「……」
 痛いところを指摘され、七代は反論する口を噤んだ。唇を噛み締める姿に燈治がため息をついて「で、何で一人でこんなところに来たんだよ」と続けて尋ねた。
「だって……」
「だって?」
「……壇が」
 ――壇が、自分を過小評価していることがいやで。でも、おれ以外の誰かが壇を評価して一緒にいるところを見るのがいやで。そんなことを考える自分が――一番いやで。
 自分でも言葉に出来ないのに、燈治に説明だなんて到底無理だ。
「……」
 ああ、やばい。整理できない考えに、感情が高ぶって涙が出そうだ。そんなの、格好悪い。壇に、呆れられてしまう。
 堪えなきゃいけないのに、高ぶった感情は七代の眼から涙をどんどん流していく。ぼろぼろと大粒の涙が頬を濡らしていく様子に、問い詰めていた燈治が逆に「お、おい」と狼狽えた。七代の頭を叩いた手が、今度はどう落ち着かせようか迷い、肩の辺りをさ迷う。




「お前はもっと自分に自信を持て。俺ぁもう、この前みたいなことは言わない。だからお前ももう自分を悪く言うことをすんな」
「……壇」
 一気にまくし立てる壇に、七代は呆然と瞬きをした。眼の匙から一粒涙が零れる。余りにも頬を濡らす回数を重ねていく涙の量をこれ以上増やしたくない。燈治は、すっと顔を上げ、舌先で落ちる涙を受け止めた。
 塩辛さが舌を僅かに刺す。燈治は胸倉を掴んでいた手を離し、両肩に乗せた。ぐっと力を込めて七代の身体を引き寄せ、腕の中へと閉じ込める。
「……頼むから、俺を頼ってくれ。お前に頼られないないほうが、俺にはきつい」
 背中に回す腕の力を強くする。離したくない。離してたまるか絶対に。燈治は今回の発端になっただろう言葉を撤回する。
「お前の邪魔をする奴は俺が全部やっつけるから。だから――お前は俺の傍にいろ」