「……アキに食べられて泣くほどショックだったのか?」
「……自分でも驚くほどショックでした」



ドラマティカ P3P 荒垣女主 P36 300円
荒垣女主が根柢にある小話詰め合わせな本。
ゲストにめぐるさんをお呼びしています!
ありがとうございます!!


話の一部


 動きやすい格好に着替えている途中、ベッドに放っていた携帯が着信音と共に震えた。ゆかりちゃんかな。真田と言い争う声は樹にも届いていた。心配かけたし謝らないと、と思い液晶画面を見る。
「えっ……!?」
 荒垣先輩、と表示された文字に、心臓が飛び出そうになった。いざというとき連絡を取れやすいようにと番号を交換したが、荒垣からかかってきたことは一度もなかった。初めての着信に動揺して手が震える。
 深呼吸をして、通話ボタンを押した。
「も、もしもし……?」
「……守藤か?」
 携帯越しに聞こえる荒垣の声。低く耳元で響くそれに、心臓が高鳴る。
「はい。守藤です」
「今からラウンジに来れるか?」
「ラウンジですか?」
 話が見えない。
「……来ないんなら別にいいが」
「行きます行きます!」



-----------------------------------------------------


 クリスマスが近づく十二月下旬の分寮。作戦室を出た美鶴は、三階の踊り場で樹と鉢合わせした。
「あ、桐条先輩」
「守藤か。もう夜分も大分過ぎているが、上に何か用事か?」
 樹が向かおうとしていた四階には、屋上に続く扉と作戦室しかない。満月の作戦以外で集まる以外は、主に美鶴しか使用していなかった。
「いいえ、違います」
 樹は首を振り「実は桐条先輩にお願いがありまして……」と告げ、躊躇いがちに俯いた。
 珍しい、と美鶴は僅かに片眉を上げる。直情的で、人に物を言うときは相手の目を見てはっきり言葉を告げる樹にしては、語尾を濁すところを初めてだった。
「どうした?」
「え、……ええっと」
 樹はもじもじして、なかなか内容を告げない。滅多にない様子から重要性を感じ取った美鶴は、辛抱強く次の言葉を待った。
 数十秒後、樹は意を決したらしく、勢いよく顔を上げた。
「クリスマスに荒垣先輩の病室に入らせてください!」